館主ご挨拶

Director’s Message

あなたを知らない


遠い見知らぬ異国くにで死んだ画学生よ
私はあなたを知らない
知っているのはあなたがのこしたたった一枚の絵だ

あなたの絵は朱い血の色にそまっているが
それは人の身体を流れる血ではなく
あなたが別れた祖国のあのふるさとの夕け色
あなたの胸をそめている父や母の愛の色だ

どうか恨まないでほしい
どうかかないでほしい
愚かな私たちがあなたがあれほど私たちに告げたかった言葉に
今ようやく五十年も経ってたどりついたことを

どうか許してほしい
五十年を生きた私たちのだれもが
これまで一度として
あなたの絵のせつない叫びに耳を傾けなかったことを

遠い見知らぬ異国で死んだ画学生よ
私はあなたを知らない
知っているのはあなたが遺したたった一枚の絵だ
その絵にきざまれたかけがえのないあなたの生命の時間だけだ


窪島誠一郎
一九九七・五・二(「無言館」開館の日に)

戦没画学生の情報を!!

 かの日中戦争、太平洋戦争での戦死者は三百十数万人といわれ、昭和十八年十月の小雨ふる神宮外苑から学徒出陣した学生も数万余といわれています。現在「無言館」に収蔵されている画学生は百三十名、おそらくこの何倍もの戦没画学生の作品が、今もどこかで私たちに発見されるのを待っていると考えられます。皆さまのご親族、遠い縁者やお知り合いのなかに、そうした画学生がいましたら、遺作、遺品の有無にかかわらず、ぜひお知らせ下さい。「無言館」の記念碑「記憶のパレット」への刻名、作品を収蔵し展示する相談をさせていただきます。

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